人気バラエティー制作集団“シオプロ”の魅力(後編)番組作りの鉄則とネットとの距離感



シオプロが手がける『バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく』(Abema TV)の番組カット
オリコン

 『ゴッドタン』『日村がゆく』『勇者ああああ』『水曜日のダウンタウン』といった“ド直球のバラエティー番組”に携わる番組制作プロダクション「シオプロ」。テレビ離れが叫ばれる中、お笑い好きの心をつかんで離さない番組を送り出しているシオプロの魅力に迫るべく、塩谷泰孝社長、ディレクターの水口健司氏、塩谷氏と親交の深い放送作家・オークラ氏に、シオプロの番組作りの掟を聞いた。

【写真】好調シオプロの原動力?社員に振る舞われる手料理のまかない


■番組のネタは“足で稼ぐ” 個性的な素人探しに奔走「毎日何千人に声をかけて…」

 シオプロは基本的には社員の主体性に任せているが、番組制作にあたってリサーチ会社に発注することは禁じており、「ネタは街に出て、自分で探す」という取材方法をとっている。ゴールデンタイムを中心とした今のテレビ番組は“情報詰め込み”タイプのものが多く、そのためにはリサーチ会社が必要不可欠な存在となっている。しかし、情報が氾濫してしまい「別の番組で既に盛り上がっていた情報です」という使い古された情報が回ってくることも多くなる。それならば自分たちで「外に出て、探す」という古典的な手段の方が新鮮な情報が集まる、というのがシオプロの考えだ。

 水口氏は「そもそも、最終的にウチみたいな末端の会社に来る情報なんて、他の番組で散々使われた“搾りカス”みたいなものなので」と笑い飛ばしながら、「それこそ、僕が『ガチンコ!』でADをやっていた頃は、ネットもそこまで発達しなくて、電話帳を使って片っ端から電話をかけたり、街に出て何時間も出演者を探し回っていました」と回顧。そのシオプロらしさが最も色濃く反映されていたのが、昨年4月から今年の3月末まで放送されていたTBS系深夜バラエティー『万年B組ヒムケン先生』だろう。

 同番組はバナナマンの日村勇紀、バイきんぐ・小峠英二、三四郎・小宮浩信がそれぞれ“先生”に扮し、イケてるグループ=A組になれなかった“B組”と呼ばれる「個性的な素人の若者たち」の担任となって応援する。プロ野球選手を夢見て、自作のボールとカラーバットでひとりぼっちで練習する「ケブくん」や、バンドボーカルの脱退に悩む「デスユウタくん」など、強烈なキャラクターが次々と登場した。水口氏は「『ヒムケン先生』は出演者を探すため、ウチのADが本当に朝から晩まで毎日何千人って声をかけていたと思います」と振り返る。

取材の鉄則は「仲良くなるところから」 好調の秘けつは“まかない”?

 しかし、魅力的な素人を見つけてからが本当の勝負。「知らない奴らにいきなりカメラで撮られて、ましてやそれがテレビ番組になるっていうと、かなり警戒されてしまう。だから、僕らは一対一の人間として取材することを心がけ、まずは仲良くなるところから始めていきます。撮影後の素人さんへのフォローも徹底しています」(水口氏)。そして塩谷氏はこんなエピソードを教えてくれた。「ケブくんとかBUNZINさん(『そんなバカなマン』に出演したユーチューバー)とか、普通に撮影と関係ない時もひょこっと事務所に遊びに来ます。一緒に飯食いに行ったり、仲良しです」。

 オークラ氏は、塩谷氏をはじめとしたシオプロスタッフの“人たらしっぷり”に舌を巻く。「懐に入るのが得意なんですよね。アウトローな人や、個性的な人間と仲良くなるのが得意なんじゃないかと思います。『一緒に飯でも食おうぜ』って感じでくるから、向こうも気を許してきて、見せちゃいけない部分をポロポロって出しちゃう。それを『よし撮った撮った』ってやっている感じじゃないかな(笑)」。たとえ相手が誰であっても、面白い人と一緒に面白いものを作っていく。言葉にするのは簡単だが、ひとつのバラエティー番組が完成するまでにはかなりの手間がかかる。そのひとつひとつを大切にすることで「シオプロ」というブランドが出来上がってきた。

 シオプロらしさを端的に示すエピソードとして、塩谷氏がおもむろに自身のスマートフォンから、おいしそうな食事の画像を見せてくれた。「ウチは、社員に手料理のまかないを出すようにしていまして、こんな感じで本当に同じ釜の飯を食っているんですよ」。そんな空気感が伝わってか、各企業が「新卒の確保」に苦しむ中にあって、かなりの入社希望があったと顔をほころばせる。「募集をかけていない時から自分で調べて送ってくる人がいたので、ホームページで募集をちゃんとしてみたら150人以上が応募してきてビックリしちゃいました」。しかし、シオプロらしいオチもあったという。「150人から選考して6人に内定出したら、半分の3人が卒業できなくて3人しか入社しなかった(笑)。内定者の50%が卒業できませんでしたって、そんなことありますかね(笑)」。

 Netflix、Hulu、Amazonプライム・ビデオなど、最近ではネット発の映像配信サービスも活況を呈している。シオプロはインターネットテレビ局「AbemaTV」の『バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく』や『フジモンが芸能界から干される前にやりたい10のこと』などの制作を手がけているが、これからさらにネットにも間口を広げていくのだろうか。水口氏は「テレビはいわゆるド直球のバラエティーっていうのが、少なくなってきている気がします。そこに何かしらの付加価値をつけなければ、寿命も短いですし、その点ではネットという場が増えたということへの期待はあります」。番組作りを取り巻く環境が変化する中、シオプロも適度な立ち位置を測っている最中のようだ。

 これまで数々のバラエティー番組の誕生に携わってきたシオプロの勢いは、これからさらに増していく。

(出典 news.nicovideo.jp)