知られざる芸能事務所とタレントの契約に国がメス…AV出演強要や詐欺商法も 



「芸能人の権利を守る 日本エンターテイナーライツ協会」より
Business Journal

 公正取引委員会が芸能界の慣行に目を光らせ始めた――。

 10月11日付記事『芸能事務所が辞めたタレントを干す行為、国が取り締まりへ…能年とローラの「異常な契約」』では、芸能人の権利を守るべく活動している日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事である望月宣武弁護士と河西邦剛弁護士に、公取委の動きとその背景について聞いた。

 

両氏の話によると、芸能界では圧倒的に事務所側に有利な契約が横行しているが、独立したタレントを干すような行為は独占禁止法違反に該当する可能性もあるという。

 そもそも、なぜ日本の芸能人は立場が弱いのだろうか? アメリカには「SAG-AFTRA」という俳優組合があるが、芸能人の権利保護についても進んでいるのだろうか。

「雇われる側は弱い立場なので、雇う側と1対1で交渉すれば負けてしまう。

そこで、雇われる側がまとまって『そんなに不合理なことを言うなら、みんなで辞めちゃいますよ』と雇う側に言えるのが労働組合です。

そのような団体交渉権は労働契約の根源であり、『労働基本権』のひとつです。

 アメリカでは、所属事務所の垣根を超えて俳優たちの労働組合がつくられているため、日本よりはるかにタレントに交渉力があります。

『そんな一方的な条件なのであれば、別の事務所に行きます』というかたちで、タレント側が事務所を選ぶことができるのです」(望月氏)

「実は日本にも『日本俳優連合』という組合がありますが、所属事務所が抵抗感を示すのではないかという懸念から、加入を躊躇するという声を聞くこともあります」(河西氏)

 組合があっても実質的に機能していないのであれば、形骸化していると言わざるを得ない。

「本来は、労働組合に加入したことをもって不利益に扱うことは『不当労働行為』といって、労働組合法で禁止されています。

しかし、不利益な扱いをされたときに守ってくれるほど強くないのであれば、怖くて組合に入れないわけです。

 労働組合というのはシェルターのようなものですが、駆け込んだときに守ってくれないのであれば、シェルターの役割を果たしていませんよね。

逆に、駆け込んだら『裏切り者』というレッテルを貼られて集中砲火を浴びる……そんな状況では、タレントも怖くて入れません」(望月氏)

●脱ジャニーズ組、のんの“干される問題”

 前回触れたように、公取委では9月5日に第2回「人材と競争政策に関する検討会」が行われ、同会に提出された和久井理子特任教授(大阪市立大学大学院法学研究科)の資料では、「スポーツ、芸能等を含む事業分野における慣行等の解明」が研究調査上の課題として明記されている。

公取委が芸能界を視野に入れたことで、今後タレントの不利な立場は解消されるのだろうか?

「検討会というのは、あくまでも諮問機関的な位置づけです。

学識経験者たちが意見を寄せる場であり、それを踏まえて、最終的に『公取委はこうします』という姿勢をガイドラインなどに落とし込んでいくことになると思います。

『間接ボイコット』のような芸能界特有の事情などについては、今回の検討会では入っていないので、さらに次の課題になると思います」(同)

「検討会と世間の認識には、ズレもあります。

たとえば、世間ではジャニーズ事務所を退所した元SMAPメンバーや、のんさんの“干される問題”が注目されていますが、検討会はその部分に対しては冷めています。

しかしながら、和久井先生が資料に『スポーツ、芸能等を含む事業分野における慣行等の解明』と明記したことは、かなり大きい。

 これから『実態を把握していこう』ということなので、ERAとしては積極的に情報提供を行って議論を進めていきたいと考えています。

国民ありきの行政ですから、行政は国民の関心事に向き合うべきです」(河西氏)

●60年以上前から存在する芸能界の“奴隷契約”

 世間の関心は高いものの、公取委の動きが本格化するのはこれからということか。

ファンは、公取委の取り組みに期待していいのだろうか。

「実は、公取委というのはすごく世論を気にする機関です。たとえば、景品表示法は今は消費者庁の所管ですが、もともとは公取委が所管する法律でした。

これも、消費者問題が多発して『こんなのおかしいじゃないか』『詐欺商法じゃないか』という声が多く上がったことから、近年活発に運用されています。

 今後は『“干される問題”にも公取委が入っていかないとダメだ』という問題意識を持ってもらえるように、ファンをはじめとする世論が働きかけてほしい。

ERAは、その声を公取委に届けます。

 こちらとしては、契約問題をはじめとして、タレント側から多くの相談を受けており、実態を把握しています。

詐欺商法に近い不合理な契約であったり、AVの出演強要にもつながるようなケースがあったり、多くの情報を持っています。

そのため、公取委に対しても情報提供は惜しみません」(望月氏)

「ERAは、決して公取委の姿勢を批判しているわけではありません。公取委は、国民の声にきちんと耳をかたむける行政機関であるべきです。そのための情報提供を行うことで、国民と公取委をつなぐ架け橋になりたいという考えです。

『今すぐ“干される問題”を検討しないからダメだ』ということではなくて、今後検討していただければいい。そこは、ステップバイステップでやっていければいいと思っています」(河西氏)

 また、今の芸能界の問題につながる話として、望月氏は以下のような事情を語る。

「1953年に、松竹、東宝、大映、新東宝、東映という当時の大手映画会社が『五社協定』に調印しました。当時は、芸能事務所ではなく映画会社がタレントを抱えていました。

 五社協定は各社専属の監督や俳優の引き抜きを禁止するとともに、『所属していた会社を辞めてフリーになった俳優はどこも使わない』という内容で、山本富士子や田宮二郎が犠牲になっています。

つまり、芸事の“干される問題”は60年以上前からあるわけで、1年や2年で是正されるような問題ではありません。

 しかしながら、今はテレビ局も事務所とタレントの不当契約などについて、情報番組などで取り上げるようになっています。

たったこれだけでも、10年前には考えられなかった流れです。一足飛びに一気にクリーンな契約に変わるのは難しいと思いますが、時間をかけて少しずつ是正していきたいと思っています。そういう意味では、10年や20年かかるような取り組みだと思っています」(望月氏)

 芸能界の裾野が広がった今、タレントの権利が正当に守られることは日本の文化の発展にとって必須だ。世論を盛り上げて、公取委を動かしていくことが重要だろう。
(文=深笛義也/ライター)



(出典 news.nicovideo.jp)